作文 雷雲 ③

その日は日曜日とあって喫茶店内は結構客も入って居て少し声のトーンを上げないと聞こえ辛い。
曜子はそんな店内を注意深く見渡し珈琲のカップをテーブルの受け皿にカタンと置いた。その顔から笑顔が消えている。怖がって居るようだ。
「何が有ったの?。」達夫は促した。
すると傍らのバッグから一枚の写真を取り出して達夫に見せた。
「この男に最近纏わり付かれててちょっと怖くて。先輩が刑事になったとほら、あの圭ちゃんから聞いていたから…。」
その圭ちゃんとは曜子と同級生でやはり吹奏部員で殊更曜子とは仲良しの子だった。差ほど器量良しでは無かったが心根のしっかりした快活で明るい子だったのを達夫は思い出した。
二人ともトランペット吹いてたなあ。、そんな事も覚えている。
今でも仲良しなんだと達夫は単純に思った。
しかしどうして俺が刑事になった事を圭ちゃんが知り得たのだろう。彼女達より一年先に卒業してから二人とは全く交流が無かったのに。と、そんな僅かな疑問を感じて居る時曜子は其の写真に人差し指をついた。達夫の眼は其の指先を見た。
随分派手なリングを付けてる。それ程目立つ高そうなリング、大きな貴重石を真ん中に配し、その周りを決して小さくは無いダイアモンドで取り巻いていて其の両方から眩い光を放っている。とても普通のOLでは買えない物で有ろう。其れは彼女にはそぐわないと思えた。
さっきから感じている違和感が更に増して来た。無論、暮らし向きが良かったら有り得るが、若い女性がどうしたらこんな贅沢が出来るのだろう。もしかしたら男がいるのか…。其れは考えたくも無い。
曜子もレッキとした大人の女性なのだ。しかしこんな派手な出で立ちをする子だったろうか。次々と湧く疑心を抑えるのに大変だ。
だが、之こそが刑事としてこの何年間に身につけた捜査員としての達夫の体験から来る感、なのかも知れなかった。