無題

無題

『おはよぉ』
北島冴子の元気な声で横を向いたけど
いつもの事なのに話す気にならないい。
片田倫子は今朝も同じ夢を観て魘されて起きた。二が月に一度くらいもう何年になろうか、其れを繰り返し見てきた。
が、冴子は意に返して無いようではしゃぎながら言った。
『あのさぁ〜、正月にほら星野源が出てたMIU404再放送してたじゃないですかぁ〜。』其れを聞いてやっと倫子は我に返った。今年の正月は珍しくその日は休んでいた。冴子は事務職だから同然見たのだろう。うなづいて見せると
『あれね最後の週だけ見逃したのよ〜。だから嬉しくてね。やっとスッキリしたわ〜。』冴子は倫子と同期なのだがまだ学生気分が抜けてない騒々しい友達だった。
『りん、?』冴子は不思議そうに顔を覗いて言った。
『彼氏とでも喧嘩した?今朝変だよ
りん。』やはり気づかれていた。いや、彼氏など倫子には居ない。捜査課にいると自ずと縁遠くなってしまうからだ。でもまあまあの美人では有ると自分では思っている。
『あ、またあの夢見たの?』
騒々しいが感の良い子だ。
冴子にだけは話してあった。
其れは無闇に人の話を吹聴する、そんな事の無い子だからだ。もう捜査課は目の前、倫子は軽く頷くと
『それじゃまたお昼にでもね。』と冴子は手を振って総務課に急いで行った。
いい子だ〜。と其れを見送りながら胸の内で確認してると『りん先輩!、急いで!殺しだ!』と大西透太が飛び出してきてぶつかりそうになった。『どこ!』と聞いたが足が早くて追いつけなくなりそうで、後を追うしかない。透太は足が早い。
『朝一で殺しか。』瞬間、倫子の気持ちがキリッと締まった。後からほかの捜査員も飛び出して来ていた。
機捜と鑑識が先に出張っている。現場は東八道路を西に行った大沢の天文台近くの民家が少し固まって有るところでもう三鷹西署に神奈川県警の藤沢東署から転勤してきてから初めてのところであった。
狭い道には警察車両が何台も停り、まだ朝の通勤や通学の人も居たりしてそう全土としている。
まだ本庁は出張っては来ていないようだ。機捜の西川が警部補の木島宗介に敬礼しながら報告をしている。
「お疲れ様です。害者は田岡健太、15歳母親が首を絞めて殺害したと言っており、母親の田島聖子を確保しております。」

しまった!

散歩が終わって玄関前で雨が降り出しました。其れはねラッキーなの。
散歩中マスクを忘れているのに気がついて戻るに戻れなく人通りも少なかったのでドキドキしながら手で鼻と口を覆い歩いてました。そしたら前から見覚えのある赤い自転車に乗った、あのいつかのおばさんに会ってしまった。
会ってしまった、それが私の本音だ。
私が左側を自転車に乗っている時の事だ。漕ぎ出したすぐ後で少しふらついていた事は確か。後ろから「危ないじゃない!フラフラと!」と。私は一瞬えっと思った。後ろに人や自転車が無いことを確認して漕ぎ出した。その一瞬に曲がって来て私の後ろに付けたのだから相当スピードが上がっていたのだろう。私の前を捨て台詞のようにそう言って通り過ぎようとした。
「後ろから来る方が気をつけるべきでしょ!」と私が呟くとスピードを増して私がこれから行く方向に曲がり、益々スピードを上げ遠ざかって行った。まるで逃げるように。
目的地は同じスーパーのようで、私はどうぞ会いませんようにと思いながら買い物をした記憶がある。その時のおばさんだ。赤い自転車に赤いスタジャン、どこまで赤が好きなんだろ?
間違いないあのおばさんだ。(私もおばさん。だがこの際棚に上げよう。)
とにかくまずい!と思い反対の方に顔を向けてやり過ごそうとしたら、通り過ぎざま凄い咳払い。気持ち見え見えだった。「マスクしろよ。」 なのだろう。
この間の事も有ったが、今日は私の方が悪い。痛い足を我慢して急ぎ我が家へ。マスクを忘れて外へ出たのは初めてだった。私が悪いし運も悪い。
気まずい空気が辺りを包んでいた·····。

せめてご近所の綺麗な桜を。f:id:mnoko:20210328123011j:plain

お巡りさん

昔昔の話し。我が家は楽な暮らしでは無かった。
三玉のうどんを汁で伸ばし其れを家族七人で分け合って食べたり、しかもそのうどんさえ商店からツケで買ったもの。そんな暮らしが幼い時続いていた。母は苛立ち態度がキツくなる。
怒らないでよ。そのうどんだって私にお金を持たさず買いに行かせた癖に。一年生の時に心の奥で思ったものだ。私たち子どもに食べさせたくて苛立ってたのでは無い。母はわがままな性格で贅沢出来ないのが苛立ちの原因だ。
そんな事が続いていた春。
春休みとなっても教科書もまだ手元に無くて子供の私は不安になっていた。
それでもその年にも桜が咲いた。
父が都の公園に花見に行こうと言った。歩いても行ける大きな公園。郷土館がある。入館料が要るので遠足の時しか中を見る事が出来ない。そんな広い広い公園に桜がいっぱい。子供だから貧しくておにぎりしか無くても日頃の鬱憤を忘れウキウキしていた。
家族で座ったそばに男の人ばかりの団体が陣取って楽しそうにしてる。その時一人の人が私に声をかけて来た。春とは言え寒い。私はシャツにカーデガン、スカートで靴下も履いて無い。寒く見えたのだろう。
「お嬢ちゃん、こっちに来て一緒にどう?」痩せた優しそうなおじさんだ。見たら他の人は何となく強面。
躊躇してたら「旦那さん、一緒にどうですか?」人の良い父は誰にも愛想がいい。直ぐにその団体の中に我が家が取り込まれた。
愉快なおじさん達だ。
父がその痩せた人と話してる。其れをその方達の用意したご馳走を頂きながら私は聞いていた。
そしたら警察官さんの団体であるようだ。おにぎりだけのお花見がご馳走いっぱいの楽しい花見に変わった。みんな怖そうだけど優しかった。子供だから其れを楽しんだだけ。
今大人になってその時の事を思い出すと、その警察官さんの優しさが染みて来る。如何にも貧しそうな家族の花見、見るに忍びなかったのだろう。私のミステリー好きはそこから来ている。刑事さんも人、人情がある。だから私はトリックものは書かない。刑事の生活を通して事件と関わる、その事を書く。
そんな人と人の交流が今はしずらくなって何となく寂しい。そして家庭環境が今となっては恥ずかしく思い出されるが今でもその事を思い出すと心が温かい。桜を見るとあの痩せた警察官の姿が浮かぶ。初老の刑事であった様だ。 終わり

新しいイラスト

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この女性像は釈迦如来のお顔をイメージして慈悲の心を表現しました。美しく花がこの女性包みます。身につけている宝飾品はデマントイドと地赤珊瑚をイメージしました。
見る方の幸せ平和を願い描いた一枚です。
F8の用紙に5ミリよ余白を取り
アクリルで彩色しました。お譲りする際には簡単な額装してのお渡しになります。
題名 華
¥30000(額装、送料込み)
代金振込手数料御負担となります。

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題名 露を見詰めて
B5位
猫って何かをずっと見詰めてる事有りますよね。クロちゃんは花からこぼれる露をじっと見ています。
¥7500(額装、送料込み)振込手数料は御負担

アコヤな夜

静かな湖にアコヤの月が
平和な夜は
微かな水の音を流し
更けて往く
湖の周りに
生を育む者の
全ての寝息
呑み込んで
アコヤの夜にf:id:mnoko:20200921113749j:plain

サイズ 380×284mm
アクリル水彩画(額装済)
¥14500(送料込み)
料金振込手数料はご負担頂きます。
売約済となりました。
2020・9・21 NOKO