作文 雷雲②


達夫は騒めく捜査員室の南に向いている窓辺に立ってその階下を何気なく見ていた。
桜の樹の縦横無尽に張り巡って揺れるその枝の間から外壁に沿って署の車両が停めて有るのがチラチラと見え、その中を今朝の件の車両も忙しく動く様を眺めても其れは空虚なだけだった。
視線を戻すとその桜の新緑の枝葉が揺れ、目に飛び込んでギラギラと眩しい。達夫は咄嗟に俯いて其れを避けた。
浦安坂波高校時代のおなじ吹奏部員で一学年下だった三崎曜子から十一年ぶりに電話が入り、相談事に乗って欲しいと頼まれ非番の日に会って話しを聞いたのが丁度一ヶ月前の事だった。
その日、昭島駅近くのテリーヌ『喫茶店』で彼女と待ち合わせた。
目の前に居る曜子は高校時代の時とは比べ物にならない程美しくなっている。そうして今自分の眼の前に居る。
その白いシャツの胸元が達夫には見えている訳では無いのだが其のふくよかな胸が容易に想像出来てしまう位開いてい、其れにミニのダークグレーのタイトスカート。そこから均整の取れた美しい脚が膝小僧諸共スっと伸びて居る。スカートと同色のジャケットは横の椅子の背もたれに掛けてあった。
黒いショートカットの髪に大き目のは白く輝く白金のピアス。女としての魅力いっぱいの曜子に達夫は些か狼狽してしまって、一瞬新妻の美穂子の顔が浮かんで消えた。シックな色の服で纏めてはいるが改めて曜子の顔を見ると真っ赤なリュージュがひかれ、同じ色のマニュキュア。何とも落ち着かない。其れにあの頃とはそぐわない雰囲気が漂うのを感じていた。其れを感じるのはやはり刑事の嵯峨なので在ろうか。
唯、この時にはまだ、やはり大人になった、学生の頃とは違って当たり前だな、と思って居るに過ぎなかった。